大阪地方裁判所 昭和44年(行ウ)92号 判決 1974年5月15日
原告 横田仲二
被告 岐阜南税務署長
訴訟代理人 兵藤厚子 外七名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告が昭和四〇年五月二四日付でした、原告の岐阜県羽島市竹鼻町二七一四番地の製造場における昭和三七年四月より同三九年八月までの製造移出品に対する物品税決定処分および無申告加算税賦課決定処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
二 被告
主文同旨の判決
第二当事者の主張<省略>
第三証拠<省略>
理由
一 請求原因1、2の各事実については当事者間に争いがない。
更に本件香剤が香料にプロピレン・グリコールおよびアルコールを混入して稀釈溶解したものであることも当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、右混合の割合はほぼ香料一リツトルにプロピレン・グリコール四リツトル、アルコール一リツトルであること、右溶剤として使用されるアルコールは現在はエチル・アルコールであるが本件処分の課税期間はメチル・アルコールであつたことが認められる。
二 そこで、本件香剤が課税物品たる香水に該当するかについて判断する。
1 課税物品たる香水の概念については法も何ら規定することがないので、これをいかに解するかは、社会通念および法の趣旨の双方を勘案して決すべきである。
(一) <証拠省略>によれば、一般に香水とは、動植物性の天然香料、合成香料を配合し、これを一〇ないし二〇パーセントの割合で溶剤にとかした液状芳香品で、右溶剤には芳香を揮散させるために純度の高いエチルアルコールが最も望ましく、更に溶剤の揮発および芳香の揮散速度を調製し、芳香を持続させるために若干の保留剤が加えられ、用途は主にハンカチーフ用として利用され、社会通念上の化粧品に属するものとして理解されていることが認められる。ところで、社会通念上の香水が化粧品に属するとしても、化粧品あるいは化粧については、その原料、製品、用途、使用方法等が、時代の流行、海外文化の影響等により変遷してきているため、確定的な定義をすることは極めて困難であるが、現在であれば一応、化粧とは服飾以外の方法で、主に視、嗅覚に訴える刺激を変化させることにより、人の身体を美化し、魅力を増し、あるいは人の周辺に好ましい雰囲気を醸成し人品を美化することをいい、化粧品とは、その本来の用途として専ら右化粧目的に奉仕するために用いられる物品といえよう。従つて、社会通念上の香水とは化粧目的に適した芳香を有する、液状芳香物で、ハンカチーフ等から芳香を揮散させ、専ら右化粧目的に奉仕することを用途とする物品と解される。なお右用途とは一般人が通常の使用方法に従つて利用する場合のそれであることは言うまでもない。
(二) 法は、課税物品たる香水を化粧品(法別表第二種第五類第四六号)とは別に規定しているが、つめ化粧料を香水と同号(法別表第二種第四類第四〇号)に並記し、更に、新法は右を全て化粧品類(新法別表第二種第一六号)として一括規定しており、これは法が第一四条で類別に税率を定めているので税率を異にする香水等(税率一〇〇分の一〇)と化粧品(税率一〇〇分の五)とを一括すべくもないのに反し、新法は別表で品目別に税率を定め(右の税率は変つていない)それが異なつても同じたぐいの物品は一括する方式をとつたことによるもので、法および新法を通じて香水の概念に変更はないものとみられ、法においても香水は社会通念上の化粧品に属すると解される。
しかし他方、法は課税物品たる香水には「固型、粉末及びねり状のものを含む」と明記しているので、課税物品たる香水は社会通念上の香水すなわち液状香水を典型とし、これと同種の効能用途等を有する固型、粉末、ねり状の芳香品をも包含し(法別表「課税物品表の適用に関する通則」第二条は、「この表に掲げる物品には、(中略)これに他の物品を混合し、又は結合した物品を含むものとする。この場合において、その物品については、これに性状、機能、用途その他についての重要な特性を与える物品のみからなるものとみなす。」として、課税物品の加工品につきそれがいかなる課税物品に該当するかを、性状、機能、用途を主たる基準として決することとしているのであり、本件に直接右規定の適用はないけれども、その判断基準は課税物品たる香水の範囲を決するにつき顧慮に値いする。ただし課税物品たる香水は物理的性状を問題としない。)結局、課税物品たる香水とは、化粧目的に適した芳香を有する芳香物で、芳香を身辺から発散させ、専ら化粧目的に奉仕することをその用途とする物品と解すべきである。
(三) <証拠省略>によれば、国税庁において編集した「物品税課税物品の解説書」には、課税物品がその原料、成分をも含めて解説されていることが認められる。しかし、そのことから同解説書が新製品等をも予測したうえで、課税物品を原料、成分により限定的に定義したものとは解されず、いわんや、法の一部を構成すると解する余地はない。
また、薬事法第二条第三項は「身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で」使用するものとして化粧品を定義し、同法第四二条第二項、ホルモン等を含有する化粧品基準(昭和三五年八月厚生省告示第二三四号)第4は化粧品にメチル・アルコールを使用することを制限しているが、これは薬物等の使用による人体への影響を考慮して薬物等に関する事項を規制し、その適正をはかることを目的とする同法の趣旨から定められた定義および制限規定と解すべきであり、奢侈品に対する課税を主目的とする物品税法とはその趣旨を異にする点からいつても、更に化粧品と香水等が化粧品類として規定されている新法において香袋のごとく明らかに薬事法の化粧品に含まれない物品が化粧品類に含まれることからみても薬事法の定義規定およびメチル・アルコールの使用制限は課税物品たる香水の範囲を薬事法上の香水に限定したり、メチル・アルコールが使用されている物品を右範囲から排除する根拠とはならない。
2 そこで、本件香剤が課税物品たる香水に該当するかにつき判断する。
<証拠省略>を総合すれば本件香剤は配合される香料が社会通念上の香水に用いられるものと同種の香料であつて、同じような芳香を発し、溶剤中のプロピレン・グリコールは揮発性が少く、これが成分の大半を占めるため、本件香剤も揮発性の少い、粘度の高い油状液であり、専ら本件香水袋の香剤としてのみ利用することが予定されており、その性状から社会通念上の香水と同様に身体等に塗付して使用することは困難であることが認められ、<証拠省略>を総合すれば、本件香水袋は社会通念上の香水が有する携帯不便、芳香の短命という欠点を避けるため、ポリエチレンの小袋に香剤を吸収させたスポンジ片を封入し、ポリエチレンの通気性を利用して芳香を発するもので、ポケツト、ハンド・バツク、ハンカチーフ、書籍に挾んで芳香を楽しみ所持者の品位を高めることが予定されていることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
右によれば、本件香剤は、油状液ではあるが、社会通念上の香水と同種の芳香を有し、(香料の容積割合約一六パーセント)本件香水袋に利用されることにより香袋のように所持するという方法で、右の香水を対象物に散布したと同様の賦香作用を有し、専ら化粧目的に奉仕することをその用途とする物品であるから、課税物品たる香水に該当すると解するのが相当である。
三 つぎに、本件物品に非課税の取扱いを認めるべきかにつき判断する。
非課税の取扱いにつき法第九条は非課税とすべき物品の要件を規定するとともに、その具体的指定を政令に委任し、これをうけて、昭和四一年政令第七六号による改正前の同法施行令は同施行令別表第三、第四に非課税物品を限定列挙しているのであるが、右各別表中に本件物品が該当すべき物品はなく、また本件香水袋を販売する殆どの場合これに購入者の商品等に関する宣伝広告が印刷されたカバー・ラベルを添付し、これがそのまま最終消費者の手に渡ることは後記のとおりであるけれども、このことは本件香水袋を法上の非課税物品と解すべき理由とならず、他に本件物品に非課税の取扱いを類推適用すべき特段の事情も認められないから、本件物品に課税したことは適法である。
四 前記認定の本件香水袋の構造によれば、スポンジ片およびポリエチレン袋が本件香剤の容器であることは明らかであるが、更に、カバー・ラベルも本件香剤の容器包装に該当するかを検討する。
1 課税物品が添付され、あるいは課税物品に添付された物が、当該課税物品の容器包装に該当するかの判断も、社会通念および法の趣旨を勘案して決するべきであるが、これを決するに当つては、その物自体の客観的形態、性状等から一般的に予想される機能、用途等を主眼として判断しなければならない。
2 <証拠省略>を総合すれば、本件香水袋とカバー・ラベルとの構造上の関係は、透明な筒状のポリエチレンの中央部を溶接して二つの袋を形成し、その一方に本件香剤を吸収させたスポンジ片を入れて本件香水袋の本体とするとともに、他方にラベルを挿入したうえ、右溶接部分で折り曲げて各袋の開口部分を溶接して一つの香水入り容器とし、これを二つ折紙片のカバーに挾むというものであること、原告は右構造の本件香水袋、カバー・ラベル全体を香水容器として特許庁に対し実用新案登録の請求をしたこと、そして原告が本件香水袋を販売する殆どの場合にカバー・ラベルには購入者の商品、営業等に関する宣伝広告文が印刷されていることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。そして右によれば、カバー・ラベルは本件香水袋に添付されることで、これを美化するという効用を有し、構造上、ラベルは容器の一部であり、カバーはこれを包装するという機能を有しており、原告自身もカバー・ラベルを含めて広く香水容器と考えていたこと、更に、カバー・ラベルは、仮に宣伝広告文が印刷されているとしても、その紙片自体では効用が僅かであり、本件香水袋にその容器包装として添付されることにこそ用途があり、その場合に印刷された宣伝広告文もその効用が期待されるのであつて、中心的効用、用途を決しているのは、本件香水袋であることが認められる。
<証拠省略>によれば、郡是製糸株式会社に対してはカバー・ラベルを添付しないで本件香水袋のみが販売されたことが認められ、カバー・ラベルと本件香水袋のみが、分離可能であることは明らかであるが、一般の容器に貼布されたラベルもそれがないことから、容器の物を収納するという機能が害されるわけではなく、いわんや包装が容器から分離しうることは当然であつて、カバー・ラベルが本件香水袋と分離可能であることをもつて、その容器包装に該当しないと解する理由とはいえない。
3 従つて、カバー・ラベルは本件香水袋の容器包装と解するのが相当であり、<証拠省略>によれば、カバー・ラベルは本件香水袋に添付されて原告の製造場から移出された場合、右香水袋とともに最終消費者の手に渡るものと推認しうるから、カバー・ラベルの費用をも含めた価格をもつて価税標準としたことは適法である。
なお、原告は広告宣伝用マツチ箱の外装および広告物の費用がマツチの課税標準にならないこととの対比上、本件香水袋のカバー・ラベルの費用も課税標準に含まれないと解すべき旨主張する。しかし、マツチはその数量が課税標準とされ(税率は一〇〇〇本につき一円)、その容器包装の費用について法に格別の規定がないのに対し、香水については容器包装の費用を含むその価格を課税標準とすると法が定めているのであるから、両者を対比しても原告主張のごとき結論はでてこない。
五 別表の年月、取引区分、移出数量、税込単価、摘要の各欄に記載された事実は当者間に争いがないから、これに基き原告の本件課税期間中の課税標準、無申告加算税額を計算する。
1 本件物品の課税標準は、販売価格に相当する金額であるが(法第一一条第一項第二号)、右金額は当該物品に課されるべき物品税額に相当する金額を除いた金額であり(同条第二項)本件物品には一〇〇分の一〇の物品税が課されるから(法第一四条、法別表第二種第四類第四〇号)、税抜単価を一〇〇とした場合の税額は一〇となるので、合計額一一〇が税込単価となる。従つて、カバー・ラベルの添付された本件香水袋はその全体の、右香水袋のみのものはそれ自体の各税込単価に一一〇分の一〇〇を乗じて税抜単価を求め、これに移出数量を乗じて課税標準を求め、一〇〇円未満の端数は切捨てたうえ(昭和四二年法律第一四号による改正前の国税通則法第九〇条第一項)、税率を乗じて物品税を算出すれば、別表<省略>課税標準欄、物品額欄のとおりであり、課税標準合計六五九万二九〇〇円、物品税額合計六五万九二九〇円となる。
2 無申告加算税額は、本税額の一〇〇〇円未満の端数、または全額が二〇〇〇円未満であるときはその全額を、切捨て(右改正前の国税通則法第九〇条第三項)、本税額に一〇〇分の一〇を乗じた金額であり(同法第六六条)、別表<省略>無申告加算税額欄のとおり合計六万三九〇〇円となる。
六 以上の事実によれば、本件処分は適法であつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 石川恭 鴨井孝之 富越和厚)